ヘッドフォンアンプを作る


目   次


Part1 使用するヘッドフォンはこれ

 今回使用するヘッドフォンは Pioneer の SE-M 870 という製品です。これは1〜2年前に近所の電気店にふらっと立ち寄ったときに何気なく購入したもので、装着感のみ重視して、音質などについては深く考えずに決めてしまいましたが、たぶんごく標準的な製品ではないかと思います。



 主な仕様は次のようになっております。

形       式
密閉型ダイナミック
再生周波数帯域
5〜32,000Hz
インピーダンス
35Ω
最  大  入  力
1,500mW
出力音圧レベル
105dB
使 用 ユ ニ ッ ト
φ50mm
プ   ラ   グ
φ3.5mm 3Pミニプラグ(金メッキ)
付   属   品
φ6.3mm 3Pプラグアダプター(金メッキ)
接 続 コ ー ド
OFCリッツ線片出しコード3.5m
質       量
270g(コード含まず)


2005.6.11


Part2 ヘッドフォンアンプの構想(妄想?)

 さてどんなヘッドフォンアンプを作るかですが、現段階でのおおよその構想は・・・

1.今回はOPアンプICは使わず、ディスクリート素子で構成する。
2.初段はNch デュアルFETの差動アンプとする。定電流回路を組み込もうかと思う。
3.2段目はPNPトランジスタの差動アンプとする予定(実は未定)。ゲインは低めに抑えたい。
4.出力段はバイポーラTr か MOS-FET か、まだ決めていない。
5.オープンループゲインは抑えめにして、負帰還量はほどほどにする。
6.クローズドループゲインは5〜10倍(14〜20dB)程度にする。
7.仮に前回作ったフォノイコとつなぐと、フォノイコの1KHzでの出力電圧を200mVrms とみた場合、本機の出力電圧は1V〜2Vくらい。負荷Zが35Ωなので出力は
1^2/35 = 28.571mW 〜 2^2/35 = 114.286mW

また出力1Vrms の機器とつなぐと、本機の出力電圧は5V〜10Vくらい。負荷Zが35Ωなので出力は
5^2/35 = 714.286mW 〜 10^2/35 = 2857.143mW

となって後者の場合ヘッドフォンの最大入力 1500mW をオーバーしてしまうので、ゲインは5倍(14dB)程度が妥当か?
8.最大出力電圧を仮に10Vrms とすると、電源電圧は最低でもその2√2倍必要なので、28.28V以上。余裕をみて±18V程度にする。
9.DCドリフト対策としてNFBループにパッシブサーボを組み込む。
10.できれば簡単なプリアンプとしても使えるように配慮したい。

2005.6.11


Part3 アンプ回路構想(第1号)は何処かで見たことあるような?

 極めて大雑把な回路構想はこんな感じです。実はかなり昔(1986年)に作ったプリアンプ回路そっくりなんです(^^; 違うところは初段に定電流回路を入れたのと、NFBループに追加したパッシブサーボくらいです。


fig 1

 差動2段にして尚かつパッシブサーボも入れるなんて、いかに大昔DCアンプのDCドリフトに悩まされたかが偲ばれます。でも出力につなぐ相手はタフなスピーカーではなくて、か弱いヘッドフォンなので、これくらいにしないと心配で・・・
 ああ、そうだ。上の図では忘れましたが、出力にもシリーズに小抵抗を入れときましょうかね、気休めで。



 しげしげと回路図を眺めていますと、2段目の反転側の回路は要らないような気もしますね。出力のDCは100%帰還するわけですし・・・そうなると2段目はシングルの抵抗負荷エミッタ接地でいいか、あるいは抵抗負荷のところに何か仕込むか、ちょっと迷うところですね。

2005.6.12


Part4 直流計算してみます

 いろいろなプランは後で検討するとして、まずは fig 1 の回路で大まかな直流計算をしてみます。なお、使用する半導体はとりあえず手持ちの関係で

初段デュアルFET2SK150
定電流回路Tr2SC1775A
2段目Tr2SA872A×2
終段Nch MOS−FET2SK213 or 214
終段Pch MOS−FET2SJ76 or 77

として考えますが、後でもっと新しいものに変更する可能性は十分あります。

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 では、まずは初段の計算から


fig 2
 

T.初段の定電流回路
 LEDの Vf を仮に 2.1V とし、流す電流を 1mA とすると
R2=(36V-2.1V) / 1mA
=33.9V / 1mA
=33.9KΩ
33KΩ
となります。

 次に初段のFETに流す電流を各々 1mA とすると
R3=(2.1V-0.6V) / 2mA
=1.5V / 2mA
750Ω


U.初段の負荷抵抗RL1
 2段目のベースとプラス電源間に2〜3V程度の電圧を
渡したいので Rd = 2.7KΩ とすると、この間の電圧は
1mA×2.7KΩ=2.7V となります。






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 続いて2段目の計算です。


fig 3
 
V.2段目のエミッタ抵抗Re

 エミッタ抵抗Reの両端電圧は
2.7V-0.6V=2.1V
 Trに流す電流を各々5mAとすると
Re=2.1V / 10mA
=210Ω
220Ω
となります。


W.2段目の負荷抵抗RL2

 バイアス抵抗VR2を無視してTrのコレクタ
電位を0Vとすると
Rc=18V / 5mA
3.6KΩ
となります。


 何度も言っていますが、これらはあくまで大まかな直流計算です。各段の電流値は適当に決めています。もちろん後で再検討するつもりで、とりあえずの値です。
 何故わざわざそんなことをするのかというと、私自身ディスクリートでアンプを組むのは久々なので、忘れてしまったことも多く、知識の総点検&再学習を兼ねているわけです。
2005.6.13


Part5 直流計算(つづき)

 やっと終段まできました。


fig 4
 
X.最大出力Pomax(フルスイング時)
 仮に電源の±18Vのうち±16Vが有効に使えるとすると
Pomax=16^2 / 2×35  (35はSE-M 870のインピーダンス)
=256 / 70=3.657W=3657mW

 しかし実際はフルスイングするほどの入力は通常ないと考えられるので、アンプへの入力電圧を1Vrmsとした場合、ゲインを仮に7倍とすると出力Poは
Po=7^2 / 35=1.4W=1400mW
となってSE-M 870の最大入力1500mW以内に収まります。

Y.終段のアイドリング電流Idとソース抵抗RS
 アイドリング電流Idを25mAとするとA級動作範囲Paは
Pa=2×25^2×35=43.75mW
となります。またソース抵抗RSを4.7ΩとするとRSの両端電圧は
25mA×4.7Ω=117.5mV≒120mV
となります。

Z.バイアス抵抗VR2
 MOS-FETのゲート・ソース間電圧を1.0V(Id=25mA時)とみると必要なバイアス電圧は
2×(1.0+0.12)=2.24V
 またVR2に流れる電流は5mAなので
VR2=2.24V / 5mA=448Ω → Bカーブ1KΩ VR とします。


 ふー、今日はお仕事で疲れたので、これくらいでおしまいにします。あと残ってるのは、NFB素子と入出力のCRと…なんだっけ?

2005.6.14


Part6 NFB素子と入出力のCR

 さて今度はCR関係の定数を決めていきます。


fig 5
 
 
 
[.NFB素子とパッシブサーボ
 ゲインをおおよそ7倍にしたいので、RN1=1KΩとすると
RN2=6.8KΩでゲインは7.8倍になります。

 またRN3=1MΩとしたとき、C3=0.47uF でこのLPFのカットオフ
周波数 fc は
fc=1 / (2π・C3・RN3)≒0.34Hz となります。これがNFBループ
に入るので、アンプ全体としてはLCF(ローカットフィルター)もどきとして作用します。(DCは増幅しない)



\.入力抵抗RgとLPF
 Rg は何となく習慣で(!)47KΩとし、LPFのほうはR1=1KΩ
C1=470pF の組み合わせで
fc=1 / (2π・C1・R1)≒338.8KHz となります。いちおう外来雑音
対策のつもりですが、-6dB/oct なので効果のほどは?です。







].出力のCR
 これは正直よくわかりませんが、通常スピーカーの誘導性あるいは容量性負荷対策として付いているものです。スピーカーの場合は10Ωと0.047〜0.1uFくらいが一般的なようです。
 今回はとりあえず、SE-M 870のインピーダンスも考慮してR4=39Ω C4=0.022uF 程度にしてみますが、もうちょっと勉強しなければいけませんね(^^;
 なお、本機をプリとして使う場合は不要なので、このCRはPRE-OUTとHeadphone-OUTの分岐以後に付けることにします。


fig 6

fig 7


2005.6.15


Part7 アンプ回路図(第1号)できましたが・・・

残りのRとC(一部除く)の定数を適当に決めて、ほぼ全部の数値が入りました。


fig 8

 まだ完成形というわけではありません。いわば叩き台です。どうもこれだと妙にオープンループゲインが少ないような気がします。概算でいいので数値を出してみたいのですが、計算方法を忘れました(^^; さ、勉強勉強。

 やはりシコシコとやってきたのも無駄ではなさそうです。忘れてしまったこと、そもそも良くわかってなかったこと、あやふやなこと、などがあぶり出しのように浮き出してきたようですから。

 もう一つの収穫は、図の描き方にだいぶ慣れてきたことですね。まだまだ美しい図にはほど遠いですが、もっと慣れれば何とか…

2005.6.16


Part8 アバウトなゲイン計算

 はなはだアバウトではありますが、ゲイン計算をしてみます。

 まず初段。2SK150 のgm をtyp値 の12とすると
Av1=gm・Rd/2=12×2.7/2=16.2倍=24.2dB

 2段目。差動2段なので
Av2=Rc/Re=3600/220=16.4倍=24.3dB

 全体のオープンループゲインは
Av=24.2+24.3=48.5dB

 NFB の量。クローズドループゲインが7.8倍=17.8dB なので
48.5−17.8=30.7dB

 ということで、トータル的には抑え気味のオープンループゲイン、少なめのNFBという所期の目的にほぼ合致しているようです。ただ、2段目のゲインが少ないのが何となく気に入らないので、ちょっと定数を変更してみます。
 初段のRdを2.7KΩから2.2KΩへ変更、これにより2段目のReの両端電圧が1.6VとなるのでReを220Ωから160Ωに変更。

初段  Av1=gm・Rd/2=12×2.2/2=13.2倍=22.4dB
2段目 Av2=Rc/Re=3600/160=22.5倍=27.0dB
全体  Av=22.4+27.0=49.4dB
NFB  49.4−17.8=31.6dB

 NFB の量が30ちょいなので特性はあまり良くないでしょうが、それは想定の範囲内(ん?どっかで聞いたような)なので、これでよしとします。

2005.6.17



Part8-2 もう少し正確なAv2の計算

 手元に何本かhFE を測定した2SA872A があります。
hFE
270
285
290
300
310
325
330
335
340
345
390
400
425
ランク
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
E
E
E
個数
1
1
2
1
2
1
3
4
4
2
2
1
1

今回はこれらのうちhFE=340 のものを使うことにします。
 残念ながら手元に2SA872A のデータシートが見つからないので、簡易的な計算です。
Av2=hFE・Rc / (r1+hFE・Re)
r1=30×hFE / Ic

r1=30×340 / 5
=2040

Av2=340×3600 / (2040+340×160)
=21.69倍=26.7dB


 それから急ですが2段目のコレクタ電流 Ic をちょっと減らして3.6mAにしときます。それに伴ってRe=220Ω、Rc=5.1KΩです。さて、そうすると

r1=30×340 / 3.6
=2833

Av2=340×5100 / (2833+340×220)
=22.34倍=27.0dB

2005.6.19


Part9 出力のCR(スナバ=Snubber)について

 Googleで検索するとまっ先に出てくるのがトラ技の用語検索のページで、何でも「いわゆるスイッチ回路において、切り替わりの過渡状態で発生する高いスパイク電圧を防止する回路(以下略)」なのだそうです。それってスパークキラー(古いなあ)みたいなものかい? ってのが最初に思ったことでした。

 対スピーカーということで考えるとL成分による高域でのインピーダンス上昇を補償するような意味合いもありそうです。そういえばディバイディング・ネットワークのインピーダンス(面倒なので以下Z)補正とどこか似ていますね。そんな観点から考えるとCの値をなかなか一意に決めかねるのもわかるような気がします。世の中のスピーカー(以下SP)は様々で、そのZ特性もまた様々なわけですから。

 で今回の場合ですが、ヘッドフォンのZ特性なんておよそ見たこともないし、どうしても手探り状態にならざるを得ない? もう私の場合、感覚で決めるしかないです。とりあえずグラフにプロットしてみて視覚的な感覚で決め、あとは実際に試作してから聴覚的な感覚で修正する…ですかね。


fig 9

今回の39Ω+0.022u というのは、まあ単純に10Ω+0.1u を4倍にしてみたというところですが、Rを4倍にしたのは、コイルの線径がSPよりだいぶ細いので納得いきますが、L分のほうはどうなのか? これは全く不明。ひょっとしたらSPと大差ないのかもしれないし…てなことで、折衷案として39Ω+0.033u ではどうかな?


fig 10

 今回はこれでよしとしますか。単に面白がって Excel のグラフ機能で遊んでるだけ…って気もしますが。

2005.6.19


Part10 MOS-FETのゲート抵抗RG

 これはMOS-FETの寄生発振(パラスティック発振ですか、舌かみそう)を防止する目的で挿入するものです。かつてMOS-FETパワーアンプでは 2SK134 / 2SJ49 に470Ω をよく使っていました。ちなみに入力容量Cis はそれぞれ 600pF / 900pF でしたのでカットオフ周波数 fc は 565KHz / 376KHz ということでした。

 それに対し今回の 2SK213 / 2SJ76 のCis はそれぞれ 90pF / 120pF とだいぶ小さくなっています。ここでRGを330Ω とすると fc は 5.36MHz / 4.02MHz とはるか彼方へ。
 ちなみに以前作ったプリ(RG=330Ω)では製作してから10年後くらいに僅かなノイズを感じるようになりました。そのときは原因が不明だったので、同じ定数で新規に作り直したところノイズは消えたのですが、あるいはMOS-FETの微弱な寄生発振だったかもしれません。

 そんなことを踏まえて今回は少々大きくしてみます。RGを680Ω としても fc は 2.60MHz / 1.95MHz と十分高いので、ここは680Ω としてみます。

2005.6.19

 Part8-2、Part9、Part10 とまとめて書いたので、どこか計算が間違ってそうで心配ですのじゃ。

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